人間と科学との対話
ひとつの身体論のこころみ(2)—身の構造
市川 浩
1
1明治大学
pp.459-464
発行日 1977年7月25日
Published Date 1977/7/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663907119
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前意識的レベルの‘身’の統合
われわれは日ごろ世間に対して‘身がまえ’ています.身がまえが過度になるとストレスが高じて心理的・生理的な障害を起こしたり,対人恐怖の状態におちいったりします.それほどでなくても旅行やパーティから帰るとほっとして,‘わが家が一番’という気持ちになるでしょう.人気のない山の中や海辺でくつろぎを感ずるのは,こうした世間への身がまえが解かれるからです.日本の自然は人手が加わり,安全な環境になっていますから,自然に対して身がまえることはあまりありませんが,山奥や原始林にはいればくつろいではいられません.歩き疲れて寝ころんでいても,がさっと物音がすれば,さっと身を起こすでしょう.座りなおしたり,立ち上がったりして身がまえます.‘姿勢をとること’自体がすでに‘身がまえ’です.日だまりでくつろいでいると,こっくりこっくりしはじめ,姿勢がくずれてくるでしょう.眠り込むことによって身がまえが解けるわけです.眠っているときはだれでも童顔になります.これは目ざめているだけで,われわれがいかに世界に対して身がまえているかを示しています.それでも夢をみて,しかめつらをしたり,寝言をいったり,冷や汗をかいたりしますから,眠りの中でもほんとうにくつろぐことはなかなかできません.
夢も見ずに熟睡していても,意識以下のレベルではたらいている‘身’の身がまえがあります.
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