教養講座・文化人類学・6
物質文化と衣食住
高橋 統一
1
1東洋大学
pp.55-59
発行日 1969年5月1日
Published Date 1969/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663906178
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16.物質文化と衣食住
ここで物質文化(マテリアルカルチャア)というのは,言語や社会組織,宗教のように,直接,眼に触れられぬ文化現象に対して,すぐに眼につく物的な生活用具と,その製作技術や使用法などの総称であって,いわば抽象的な精神文化に対応する文化の具体的な部分と考えてもよい。ヒトは道具を作り,それを使用することによって文化を創造し発達させたのだから,物質文化こそ自然に対する人類の適応という点で,文化の基盤的部分をなしている。つまり人間として生きるための基本的要素である衣食住をカバーしているのが,これである。
観察しやすいものはそれだけとっつきやすいから,文化人類学でも物質文化の研究は最も早く発達したが,このことは先に触れた文化の伝播論や文化圏説などからも窺えるであろう。かくて欧米各地の民族博物館がこの学問の基礎づくりに果した役割は大きく,現在でも人類学者のフィールド・ワークでは生活用具(民具)の蒐集は不可欠な仕事の一つである。いまでは人類学者の主たる関心は物質文化以外の領域に移り,考古学者が過去の物質文化の残存を取り扱うだけで,物質文化研究の意味が薄れているかにみえるが,決してそうではない。現在もなお石器時代的な物質文化をもつ未開種族はあるし,考古学的遺跡遺物とこれとの比較研究は,さまざまの課題を提供する。
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