連載 社会思想史の旅・5
近代社会の形成と自然法
田村 秀夫
1
1中央大学経済学部
pp.79-83
発行日 1969年3月1日
Published Date 1969/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663906144
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近代自然法の性格
人間が作った実定法に対して神=自然=理性の法として永遠の自然法が存在するという思想は,古代にも中世にも見出すことができるが,近代の自然法思想は,一方では自由・平等の個人の自然権を主張することによって,封建社会に対する闘いの武器となり,他方では新しい近代市民社会形成の原理ともなったのである。っまりトマス・アクィナスの合理化した調和的自然秩序としての封建社会が解体し,ルネッサンスと宗教改革を通じて近代的個人が解放されると,いわば生まれたばかりの個人からなるこの無定形な状態から,新しい秩序を建設する原理が求められるようになる。ここから,解放された個人(=市民)の形成する新しい社会(=市民社会)の構成原理として,近代の自然法が,新興市民階級の自己主張の思想的武器として登場するのである。
したがって,新しい自然法は,中世の神学的束縛から解放されて世俗化し,自由な個人の権利(=自然権)を基礎として,社会契約理論を導入することによって新しい全体(=国家主権)を秩序づけようとする。それにともなって,神の「恩寵」の滲透していた「自然」が自立化し,これに応じて神から与えられた「正しい理性」は「人間性」(ヒューマニティ)の意味になり,人間性はまた「人間的自然(ヒューマン・ネイチュア)」と考えられることになる。
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