特集 第16回看護教育研究会夏期講習会のすべて
看護教育研究会 第16回夏期講習会
Ⅲ 文学と人生
長谷川 泉
1
1学習院大
pp.20-24
発行日 1966年9月1日
Published Date 1966/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663905699
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文学と人生
一つの象徴的事実
文学散歩のコースとして有名な文京区千駄木町に「文豪夏目漱石邸跡」という標柱があります。ここは明治36年から39年まで,文豪夏目漱石が住んで,「吾輩は猫である」「坊っちゃん」「草枕」などを書いた家のあった跡です。この家は,現在では犬山市の明治村に移築されてありませんが,ここを訪れる人は,なるほど,ここが夏目漱石の「猫の家」のあったところかと,感慨にふけることでしょう。
だが,それだけでは,無智のおめでたさというべきであって,この漱石の「猫」の家こそは,文豪森鷗外が明治23年から25年まで住んで「文づかひ」を書いたり,坪内逍遥と有名な没理想論争を闘わせる評論を書いた家でもあるわけです。つまり,近代日本の双璧をなす鷗外,漱石という2文豪が住んだ家の跡だということで,ひとしおの感慨をそそるところなのです。それなのに,建てられている標柱は「文豪夏目漱石邸跡」だけです。知らないということは,まことに天下太平なことです。
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