教養講座
文学の享け取りかた
長谷川 泉
1
1医学書院編集部
pp.50-52
発行日 1959年8月15日
Published Date 1959/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910912
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後世の歴史家が20世紀を記述する場合に特筆大書するであろうことは,宇宙世紀の誕生ということであろう。人工衛星の打上げ成功は,私たちの住む地球が太陽系のなかの僅に一つの存在にしか過ぎず,宇宙にはそのような太陽系の如き存在がまだほかにもあるということになると,何か私たちの住むこの地球が作日と今日では別物のように感じられる。このように全体系のなかでの地球の位置というものを考える見方は巨視的な立場である。これに対してごく限られた狭い範囲内のことに沈潜して,全体に眼をそそがぬような見方が微視的な立場である。宇宙世紀の誕生は,私たちに物を見る場合に,巨視的な見方というものを教えたともいえる。
この巨視的な立場は,文学においても適用できる。文学を考え,文学を享受する場合に,たとえば森鷗外がヨーロツパに留学中「舞姫」に出てくるエリスと同棲していたかどうかというようなことをしらべたりするのは,微視的な立場であろう。これに対して,およそ文学とは人間のいとなみの中でどのような位相を占め,どのような性格のものであるかというようなことから考えてみるのは巨視的な立場であるといえる。
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