教材
患者を社会的視野でながめよう—II.患者と医療担当者との社会関係
杉 政孝
1
1立教大学
pp.37-40
発行日 1963年5月1日
Published Date 1963/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663904377
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医療担当者も社会関係の当事者である
前回では,患者の病気を患者自身の社会生活の文脈の中において理解すべきことを強調した。たしかに,医師や看護婦は患者の社会的立場やパースナリティーとの関連においてその病気をとらえることによって,患者の悩みや不安やよろこびを真に共感することができよう。しかし,医師や看護婦は第三者として患者を客観的にみているだけではすまない。診断,治療の過程を通じて患者と医療担当者との間には新たに社会関係が形成されている。医師や看護婦は,実験用動物を使って純粋に科学的な観察や実験をしている場合には,対象との間に社会関係をもつことなく,完全な主体性と主導権をもって一方的に行動しているのであり,対象が生物ではあってもそこに社会的な相互作用はない。しかし患者は実験動物ではない。学問上貴重な症例を提供する患者や,医学教育における教育例となる患者は,その点で多少客観的に対象化されることがあるのは,医学の進歩のために承認されねばなるまい。しかし,通常の診断治療は必ず患者と医療従事者との間に形成される社会関係を場面として行なわれているのである。医師や看護婦は自らの立場という殻に閉じこもったままで,手だけをそこから差し出して治療看護をしているのではない。
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