教材
患者を社会的視野でながめよう—I.問題のありかと基本的考え方
杉 政孝
1
1立教大学
pp.27-29
発行日 1963年4月1日
Published Date 1963/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663904356
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即物的な病気と社会的な患者
金持でも貧乏人でも「かぜ」をひく。職業の差に関係なく,腐ったものを食べれば下痢をする。そしてそれを治療する方法も貧富や職業の別に関係なく共通である。薬をのみつけていない未開人に歯みがき粉をのませれば腹痛がなおるという冗談はあるが,われわれの社会ではまさかそれほどのことはない。同じ薬,同じ治療法は肉体的に条件の同じ人になら同じようにきく。だから病気そのものはほとんど即物的に考えてよいことは確かであろう。実は病気の種類やかかり方にも患者の社会的心理的条件が影響を及ぼすことがあるのだが,一般的には,病気は生理的な現象として客観的な自然科学の対象とみて誤りではない。したがって,直接に診断治療にたずさわる医師が,患者を病める一個の肉体として客観的即物的にとらえようとするのもあながち無意味ではない。それは医師としてむしろ必要な態度ですらあろう。
しかし,生理現象としての病気にかかっているのは社会的存在としての人間であることを認識する必要があろう。病気を即物的にみることは患者を即物的にみることではない。人間としての患者はもはや単なる一個の物ではなく,一定の社会的条件と社会関係の網の目の中に生活している社会的存在である。一般的客観的現象である病気は,患者にとってはそれぞれ特定の意味をもった個別のでき事である。
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