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研究テーマの発想はどこから?
看護研究とはおもしろいもので、年齢を重ねても初心を忘れたことはありません。私は採血部位に関する研究を主に行っています。この研究を始めたきっかけは、看護師として勤務していたときに下肢から採血する機会が何度もあり、上肢からの採血より明らかに強い患者さんの苦痛の訴えを何とかしたいという思いでした。そもそも下肢からの採血は血栓形成のリスクが高いとされており、積極的に推奨される部位ではありません。しかし、リンパ節郭清を伴う乳房切除術後やシャントを造設している患者さんが健側から輸液をしているときは、下肢を採血部位に選択するしかありませんでした。このような状況を何とかしたいという思いは今でも変わらず持ち続けています。
看護研究を始めるきっかけが他分野の学問と明らかに違うのは、「それを知りたい・明らかにしたい」ということから始まるのではなく、「患者さんによりよい看護を実践したい」という思いがスタートになることが多い点だと思います。そこがスタートとなり、次にどのような研究手法が適しているかを考えます。つまり、看護研究とはアカデミックなものであると同時に、看護師としての人に寄り添う気持ちが必要なのだと思います。私の恩師が「よい看護教育者・看護研究者は、よい看護師でなくてはいけない」といつも話してくれました。「そんなの当たり前でしょ」と当時は軽く思っていたのですが、今となっては「深い言葉だな」と思います。年齢を重ねた今、恩師の言葉を考えると「いくら教育能力や研究能力に長けていたとしても、患者さんの役に立ちたいという思いがなければ、新たな看護研究のテーマの発想や、よりよい看護教育方法の実践につながらないのだ」と理解するようになりました。こう考えるようになったのは、看護師の経験が、現在教育者・研究者である自分へ影響したからだと思います。
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