特別記事
ナイチンゲール看護論の現代的意義―医学史からみたナイチンゲール看護論(後編)
平尾 真智子
1
1健康科学大学看護学部
pp.420-425
発行日 2020年5月25日
Published Date 2020/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663201487
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『看護覚え書き』本論にみるナイチンゲールの主張
●「換気」が最初にくることの医学史的解釈
1)医学史からみた病気の原因としてのミアズマ(瘴気)
19世紀に伝染病の原因として有力であった学説は、接触説と大気説であった。ナイチンゲールは『看護覚え書き』*で換気をいちばん強調しているが、新鮮な空気の重要性はナイチンゲールが学んだドイツの看護学校カイゼルスベルト学園のテキストでも同じように述べられている。『病院覚え書き』のなかでは、「感染は空気を通して行なわれる」と記している。
大気説としてミアズマ(悪い空気)説があり、フランスの科学史研究者ダルモンは、著書『人と細菌―17-19世紀』18)で、細菌学が登場する前に主流であったミアズマ説について詳しく取り上げている。ミアズマ説とは、病気は汚れた空気などより発生するという考えで、古代ギリシアのヒポクラテスが提唱したものである。日本語では瘴気説ともいわれる。miasma(ミアスマまたはミアズマ)は、ギリシア語で不純物、汚染、汚れを意味する。訳に用いられる「瘴」は熱病や汚れを生む風土を意味する。また瘴気によって起こる流行性の熱病を瘴疫という。瘴気は気体または霧のような物質で、汚れた水、沼地や湿地から発生し、人間がこれを吸うと体液のバランスをくずし病気になる。瘴疫を起こした人間も瘴気を発し、周囲の人間を感染させる。
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