連載 看護に恋した哲学者と読む ベナーがわかる! 腑に落ちる!・10
『ベナー 看護論』の方法論
榊原 哲也
1
1東京大学大学院人文社会系研究科
pp.158-163
発行日 2019年2月25日
Published Date 2019/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663201185
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本連載は、ベナー看護論を、そのベースとなっている「現象学」という哲学の視点から理解することを目指しており、そのため、まずもってベナー/ルーベルの『現象学的人間論と看護』*1で提示されている現象学的人間観の5つの視点を明らかにすることに取り組みました。そして前回までに、「身体化した知性」「背景的意味」「気づかい/関心」「状況」「時間性」という5つの視点すべてについて解説し、現象学的人間観にもとづいてこの書物で展開されている看護理論のいくつかの特徴についても考察しました。
ベナーらによれば、人間は、さまざまな「身体化した知性」の能力—反応したり学習したりする生まれながらの身体的能力や、誕生後に文化的・社会的に身につけられる姿勢、身振り、日常的な道具使用、専門的な熟練技能などの能力—を具え、また自らが帰属する種々の文化や家族からさまざまな「背景的意味」を与えられ、それを当たり前のものとして身につけている、過去からの時間の厚みを具えた存在でした。また、人はつねにそのつど未来に向けて何らかの物事が大事に思われてそれを気づかい、その関心事に巻き込まれつつ、たとえば看護師として、看護教員として、子をもつ親として世界にかかわっていく、「気づかい/関心」という在り方をした存在であり、そのため現実世界のさまざまな関係性に巻き込まれつつかかわり、そうした関係性へのかかわりを自己にとっての意味という観点から「状況」として、感情をともなった仕方で直接的に経験するのでした。
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