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ていねいな暮らしを大事にしてきた著者の生活視点を学べる1冊
認知症ケアにかかわった者であれば、本書の著者、樋口直美さんを知らない人はいないだろう。本書でも書かれているが、介護者、特に医療者のなかには、樋口さんがレビー小体型認知症患者の代表のような位置づけになっていることに疑問を呈している人もいる。私もどちらかといえばそうであった。でも、それは樋口さんの生活を語るうえでのキーポイントではないと思った。診断や治療はその人をステレオタイプに分類するものではなく、その人の日々の生活にとって有益な状況をつくり出す助けをするものだ。もちろん医学の進歩のためには分類して特徴づけることは重要であるが、それも「その患者」の生活に還元できるためのものである。特に私が専門にしている看護学では、どんな状況のなかで「その人」が生活しているのかをできるだけイメージしていくことが重要だ。
しかしながら、本書で樋口さんが表現している体験やそれを自分のなかでどのような形で溶け込ませているかを知ることで、医学も看護学も、常に病のなかで生きる人の生活を後追いしているように感じた。診断がつくり出す、これまで何十年も継続されてきた研究の体系以上に、その人が体験している生活の在りようは多彩だ。なぜこんなことが起こるのか、今までの体系では説明できないことを医療者は疑問に思っているのだが、病気をもつ人のほうがその疑問を百倍強く思っているだろう。自分自身の生活のなかで、その気持ちにどう折り合いをつけながらやっていくのかをどれだけ考えているのだろうと思うと、医療者はもっと謙虚になるべきであろう。ここまで精密に症状を描写し、自分なりの解釈を気持ちを奮い立たせ、変えていこうとする力を本書に込めてくれた樋口さんに心より敬意と感謝の意を表したい。
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