連載 リズムとからだ 「うまくいく」と「うまくいかない」の謎・1【新連載】
リズムと障害
伊藤 亜紗
1
1東京工業大学
pp.302-305
発行日 2017年4月25日
Published Date 2017/4/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663200727
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からだ変われば動きも変わる
はじめまして,伊藤亜紗です。わたしは大学の研究者で,自分と違うからだのつくりをした人,たとえば目の見えない人や耳の聞こえない人,下半身の感覚がない人,まひがある人などが,どんなふうにそのからだを使いこなしているのかを研究しています。「からだの研究」といっても生理学や医学のようにデータをとったりするわけではなくて,当事者へのインタビューや行動観察が中心です。「えっと,いま器用に蕎麦を食べていらっしゃいますけど,目で見ないでどうやって食べてるんですか?」なんてお話をうかがいながら,「その人ならではのからだの使い方」を記述しようとしています。
当たり前ですが,からだの条件が違えば,動き方が異なります。たとえば「歩く」を例にとってみましょう。大人だと「スタ,スタ,スタ」とほぼ一定の速度で歩きます。けれども子どもであれば「スタスタスタ」と歩幅が小さくなり,さらには不意に向きを変えて走り始めたりするかもしれません。同じ大人でも目が見えない人の場合は,「すり足」のような歩き方になります。目の見えない人は足裏の触覚を使って地面の材質や段差を感じていますから,一気に体重をかけたりせずに「感じながら歩く」のです。同時に,手には白杖を持って少し前の地面をセンシングしますし,耳は壁からの反響音を聞いています。逆に耳が聞こえない人であれば,背後から来る車やバイクの音を察知することができない分,キョロキョロと頭を振って,目で安全を確認しながら歩くことになります。
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