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はじめに
看護技術教育において安全と安楽は,しばしば「安全・安楽」と一体化して表現されることが多いが,実際には一緒のものではない。安全は,「対象が危険や脅かしのない状態であること」に対して,安楽は「対象が気持ちがよいと感じ,心安らかな状態を得ること」であり,「人間の尊厳を維持して人間らしい生活ができること」ととらえるならば,技術を提供した結果として獲得するには後者のほうがはるかに難しい。そして,安全は安楽の必要条件であるが,安楽は安全の十分条件ではないので,多忙な医療現場では安全な技術ばかりが求められてしまう現状にある。特に医療事故が多発し,医療安全が強調された2001(平成13)年以降1),技術教育のなかで安全はより重視されたが,その分,安楽な技術の習得には重きが置かれなくなったように感じる。
安楽な技術に重きを置かれなくなったと感じるもう1つの理由に,技能の獲得に重きを置かなくなった看護基礎教育の現状があるように思う。安全な技術は,武谷や川嶋がいうところの技術の「形」習得において可能であるが,安楽な技術は,その先の,技術の「型」習得がなされなければ困難である。にもかかわらず今日の看護実践能力育成の時代2)にあっては,臨床判断能力やチーム調整力,管理能力など,学生のうちから学ぶべき内容が増え,そのため技術の「型」習得に必要な動機づけや,反復訓練に必要な時間が確保できてきないものと考える3)。
では,患者の安楽を得る技術教育は「絵に描いた餅」であって,実際に教授しなくてよいのだろうか。決してそのようなことはない。なぜなら安楽は,生きる意欲を支えることや人間らしさの尊重など,看護の本質,目的につながる重要な概念であり,安楽を教えることが看護の本質を教えることになるからである。したがって,看護基礎教育では,冒頭で述べたと同様,「安全と安楽」は切り離さず,常に一体なものとして教授したい。さらに,患者と自分の安全と安楽を体得するまでの技術の「型」の習得を目指したい。
本稿では,技術教育における「安全と安楽」の一体化を意識し,技術を学ぶ最初の段階から,「型」習得までの過程のなかでどのように習得を促すか,われわれの取り組み例から紹介したい。
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