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はじめに
主体的に学ぶ学生の育成は,看護教育にかかわるすべての教員が願うことである。しかし,これまでの伝統的な教員主導の知識の注入一辺倒の授業のみでは,主体性は育たない。刻々と高度化・専門化する医療現場では,従来よりも高い能力が求められており,看護基礎教育で学んだことだけでは対応しきれない。自分で考え,学んだ内容を発展させていく学生を育てるには,これまでの教育方法を見直し,変えていく必要がある。
学力や能力を構造化する際によく用いられる氷山モデルでは,目に見えている能力や学力は,氷山の一角でしかなく,水面下に潜む学力や能力は見えている範囲を遥かに上回るとされている。水面下に潜む能力には思考力や意欲・関心,感性といったものが含まれ,自ら学びを深める大きな原動力となる。その力を引き出す教育方法としてアクティブラーニングが注目されている。そのエビデンスは学習ピラミッド(図)において講義などの受け身の学習方法より,グループワークや他者に教えるといった能動的学習方法のほうが「学習定着率が高い」と示されたことによる。
ただ,学習者が教員の情熱を感じ取り,心を揺さぶられた講義は,何十年後でもその記憶が鮮明であることを自分自身が経験していることから,講義が最も学習定着率が低いとは一概に言えないのではないだろうかと感じている。溝上1)は,学習ピラミッドはあくまで実践を推進するための模式図であるとし,学習定着率のデータの根拠は明確ではないことを指摘している。さまざまな批判のある図ではあるが,インプットだけでは受け身の学習であり,アウトプットすることにより学習者の活動性が増すことは理解できる。そしてこの教育方法には事前課題が不可欠である。
「教師に教わる」から「自ら学ぶ」へのパラダイム転換の時期に来ているのは紛れもない事実である。これは教師主導の行動主義から,学習者主体の構成主義へと学習観が変化していることにもよる。ただ,筆者はここで行動主義的学習観を否定し,構成主義的学習観が望ましいと主張したいのではない。構成主義的学習観が注目されている現状ではあるが,行動主義的学習観も必要であり,状況に応じて使い分けていくことが大切ではないだろうか。いずれも適切な事前課題は,学習効果があると考えられる。たとえば反復練習が必要な基礎的看護技術や単純な認知には行動主義で,その人の個別性に合わせた看護の実践には構成主義でといった使い分けも一方法である。
学生の周囲には多くの情報が溢れている。何かを知りたければ「ググる」ことで容易に情報を得ることができる。事前課題は情報の渦のなかでの学習の道しるべである。情報を取捨選択し,知識を組み立て,まとめ,他者に理解を求め,協働することができる。相互に啓発し合えるよう学びを支援することが教員には求められる。
以上のような状況をふまえ,本稿では以下の2点について述べたい。
1.教員が事前課題づくりのためにやっていること,やっておくこと
2.学生が事前課題をやってくるように仕向ける工夫
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