第2特集 看護学生論文─入選エッセイ・論文の発表
エッセイ部門
記憶に残らなくても
川又 あおい
1
1自衛隊中央病院高等看護学院
pp.722-723
発行日 2014年8月25日
Published Date 2014/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663102780
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私の3週間にわたる実習は毎朝自己紹介から始まった。私は,記憶に残らない存在だったのだ。
私が看護学生として初めて受け持たせていただいた患者は,A氏90歳代,急性肺炎で入院している方であった。実習初日に初めて対面したのだが,優しい表情で迎え入れてくれた。私が実習を行いたいというお願いをすると,「新しい人?どんなことするのだろうなあって楽しみです」と笑顔で了承してくれた。安心していたこともつかの間,A氏はずっとその言葉を繰り返すようになった。何を質問しても,ただただ言葉を繰り返すだけで,私自身,どのように対応していいのか分からなくなってしまった。また,少し時間を空けて再び病室を訪れた際に,「どうも,はじめまして」と挨拶をされて,動揺してしまった。その後,再び自己紹介をした後,コミュニケーションをとろうと試みたが,浦島太郎の歌を歌いだした。そこから話を広げようと思ったが,A氏はつぶやくように歌い続け,私は何もわからないままその日病室を去った。
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