- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
解剖生理学は初年次に実施されるため,その手前にあった高校までの学びとこの後に控える看護専門領域の橋渡し役ともいえよう。その演習には,実技による知識の確認や技術の習得という狭義の目標と同時に,看護の対象を総合的に理解するためのモチベーションの向上という広義の役目もあるはずだ。それをふまえて,看護学部1年生IIセメスターの「解剖生理学演習」でクローズアップすべき目標ないし課題をメモ書きしてみると以下のようになる。
1.科目一貫性の維持:実習全体の構成に一貫性をもたせる,他科目との間を円滑につなぐ。
2.習熟度の向上:課題を十分にマスターさせる,教員学生間の双方向性を適切に保つ。
3.複数実習テーマの導入:できるだけ多くのテーマを組み込む,new technologyを取り入れる。
4.職業意識の高揚:看護倫理を学ぶ,専門職者意識をもたせる,医療安全の精神を養う。
5.積極性の醸成:コミュニケーションを形成させる,リーダーシップを取らせる,学生の積極性を引き出す。
6.各種制約の克服:機器の量的制約,スペースの活用,多人数の学生への対応,少人数の教員での運用。
このうちでモチベーションの向上に関連するのは4.と5.であるが(いわば高校4年生にいかに早く大学1年生になってもらうか),工夫を凝らさなければ満足な効果は得られない。そこで,今まで多くの教育者によってさまざまな検討がなされてきた1, 2)。私も,看護教育に特化したものではないが,初年次教育のなかで演習のあり方を工夫した3)。
教員がグループ単位で同じ説明を繰り返したうえで,学生が代わる代わる教え合うのでは,手間がかかる割には理解度や積極性にばらつきを生じる。また,グループワークでは,学生間での責任の所在があいまいになりがちだ。かといって,ディベートは実技習得には馴染まない。試行錯誤を重ねた結果,“ピア・エデュケーション”の採用に至った。私は教育学が専門ではないので,ここでは単純に「初学者同士が教え合って学べるように設定された教育スタイル」と定義しておきたい。一ひねりした点は,仲間が同じ目線で教え合うのではなしに,同一実習テーマを3週間にわたって繰り返すなかで,第1週目にpatientとして全体を把握し,次の週にnurseとして教えてもらいながら課題をこなし,最後の週にteacherになってnurseを教えるというように,学生1人ひとりが技術的にも役割上でも順次ステップアップしていく仕組みを取り入れたことである。
Copyright © 2014, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.