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事例 精神疾患を発症しながらも教員の目には問題なく映る学生
A子さんは,入学当初から特に教員の話題にのぼるような目立った学生ではなく,落ち着いた態度と丁寧な言葉遣いで話す様子からは,一人暮らしにもかかわらず比較的良好な学生生活を送っていると映っていた。しかし,A子さんと部活動を一緒に楽しんでいた友人たちは,2年生になるとA子さんの変化に気づくようになっていた。部活動の歓迎会や打ち上げの飲み会の席での悪酔いや豹変した態度に,最初は「酒癖が悪い」と思っていたようだ。翌日には,礼儀正しい態度で友人とも話をするし,授業にもしっかりと出席するため,部活内の飲み会での話をわざわざ教員に話す必要はないと思っていた。その後,友人たちへの執拗なメールが昼夜を問わず送られるようになったことで,ようやく身近で実習担当をしていた教員に「A子さんの頻繁なメールで困っている」ことを相談したのである。相談を受けた教員は,回数は多いけれど普通の内容が書かれているため,「一人暮らしで,淋しいのではないかしら?」と助言し,しばらく様子を見ることにした。
A子さんの学習や生活の態度は,その後も教員の目には良好に見えたため,このような友人たちの話は,すぐに信じられるものではなかった。A子さんに,アドバイザー教員が,一人暮らしの生活状況や部活動のことについて個人的に話をする機会をもったが,A子さんは「とてもうまくいっている」とごく普通に話すだけであった。深刻さも,何の変化も見受けられない。もしかすると,友人たちのほうが何か誤解しているのか,あるいは問題があるのはA子さんではなく他の学生たちなのではないかと,教員たちは疑ったりしていた。そのくらいA子さんは,誰の目にもごく普通に見えたのである。
やがてメールが頻繁にくるだけではなく,その内容が脅迫めいたものになると友人たちは恐ろしくなって,5名ほどの部活動のメンバーで学部長のところに直接相談にやってきた。教員たちは,このような状況に追い込まれてしまった友人たちの行動に驚きながらも,恐ろしい脅迫メールの内容を見せられて愕然としてしまった。こうなると,動かぬ証拠があるから皆も信じないわけにはいかない。すでに友人たちの相談から1年近い月日が経っており,教員たちはこの段階でようやく,地方に暮らす保護者に連絡を取りA子さんとともに面談を行うことになった。
*個人と場所が特定されないようにフィクションとして再構成しています。
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