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Make sense?
専門職としての私に影響を与えた恩師たちのなかに米国人のR教授がいます。今振り返ってみると,理解のある人だったと思えるのですが,指導を受けている当時は言葉が通じないので関わることそのものがストレスでした。「英語嫌いの私でも,ストレスを受けているうちになんとかなるかも」と淡い期待を抱いていたのですが,そうは問屋が卸さない……。結局,英文が模様に見えてしまう私の頭は改造されませんでした。
そんな私にも「役に立つ」と思える英語表現はあるものです。今回の内容と関連する表現だと“make sense”。これは,R教授が学生の理解度を確認するときに使っていた表現です。彼女は,私が理解できずにいるのを見てとると,複数の事例を提示してから“Make sense?”と問いかけ,実体験とつながった理解ができたか否かを,欠かさず確認していました。このときは,英語が不得意で自ら言語化することが困難な私に代わって教授が説明してくれていたのですが,「自分で事例を複数挙げて“このような理解でいいですか?”と確認できたらいいのにな」と思うことがよくありました。なぜなら,彼女の説明を聴きながら,私は,頭のなかでさまざまな記憶をひき出し自分の経験に引き寄せて理解していたからなのです。そうして実体験に結びついた理解が促されるにつれ,その言葉が生き生きとしてくるような感覚を覚え,それは,言葉を使って思考したり表現したりするときの私に影響を与えました。幾度となく“Make sense?”と問われる体験は,このようにして,私に体験的な理解と言語表現が結びつくことの重要性を強く認識させたのです。そして“Make sense?”と問いかけるR教授の姿勢は,私自身が学生と向き合う姿勢の原型となり,さらに学生の語りを促す支援スタイルに転じていきました。実習の最後は,この“Make sense?”の姿勢で,学生が学んだことの総体の言語化を促し,成果と課題を認識するための支援を展開していきます。
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