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コンパクトにまとめられたこの本が世に出た。地域リハビリテーションに関わるセラピスト向けの雑誌『地域リハビリテーション』に連載されていたのを,在宅医療に関わるすべてのスタッフ向けにとの思いから,ポケットに入るサイズの大きさと見やすさで編集されている。執筆者の松村真司氏は東京都世田谷区で家庭医として地域でプライマリ・ケアを担う若手医師。下田泰彦氏も世田谷区にあるクリニックで在宅医療に従事,山寺慎一氏も大阪でチーム・ケアを重要視した外来診療と在宅医療を行っている,まだ40歳前の第一線で実践活動を行う医師たちの秀作である。
在宅医療は慢性期,維持期の状態が多く,薬の投与は必須であり,その使い方,ことに量や用法や,副作用の発現を見逃したり,相互作用の結果を見落とすと,逆に介護状態を悪くする結果を招くことがある。在宅で仕事をするものにとって,なんだか元気がない,よく立ちくらみを起こして転倒すると思っていたのが,降圧剤の効きすぎだったりといったことをよく経験する。看護師はそういったことをきちんと観察し,連携している医師に情報発信しなくてはならないが,薬物文献集を常に持参することは難しく,こういったコンパクトのものがあれば,訪問先でもちょっと確かめることができるし,本人・家族の訴えや,介護者のヘルパーさんなどとも情報交換がしやすい。観察した身体症状が,薬物との関連はないかという視点は,上手に訴えることのできない高齢者や,障害者の代弁者として,処方を出している医師や,調剤をした薬剤師との間を調整する看護師としては重要な役割であると常々感じているので,こういった事例を挙げてわかりやすく解説された本はありがたい。1項目ごとに「これがポイント!」とサマリーのように載っているのも,急いでいる時は,まずはサマライズした内容を見ることができて便利である。目次と索引をうまく活用して,自分の探しているところにたどり着きやすい。「総論にかえて─鼎談の席から」が序文の後に載っている。ここに,薬を通したコミュニケーションとして,多職種とのコミュニケーションを図る時にも,薬の知識があればもっとスムーズに運ぶこともあるし,生活の中で見えることを処方する医師にも伝えることで,対象者のQOL向上に役立つこともある話が載っている。看護学生にもこういった在宅医療の実践者である医師が発信する薬の知識を,具体的な事例から学ぶことで,在宅医療現場の理解も深まるのではないかと考える。看護教育の場にも,学生向けの参考図書としても,ぜひ備えておきたい1冊である。ぜひ,図書館に納めたらとお薦めする。在宅現場のスタッフには,個人用として活用できる一冊である。ケアマネジャーやヘルパー事業所にも薦めたいと思っている。
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