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「先生,質的研究の方法を教えてください!」と目を輝かせた学生を前にしたとき,あなたはどうするだろうか?今や,質的研究方法の多くが看護研究に適切な方法論と認知され,多くの学生が学習の機会を望んでいる。本書は,その切実な願いに応えることができる貴重な一冊である。というのは,質的研究,とくにグラウンデッドセオリーにおける「データとのつき合い方」をこれほど分かりやすく,かつそれを実際に体験できるトレーニングのプロセスまで解説した本はないからである。あなたに教える自信がなくても,本書が,大海原を航海する船の羅針盤のように行くべき先を示してくれるだろう。
まさに大航海と呼ぶにふさわしい質的研究のプロセスを体験してもらうために,本書は「研究方法を学ぶ理由」から始まり,説明の難しいそれぞれの具体的なプロセスを,具体的なデータを提示しながら丁寧に解説している。また,著者の担当する大学のゼミの内容がふんだんに盛り込まれており,読者がゼミに参加しているような「バーチャル感」を体験できることも魅力である。すべてのプロセスで学生が葛藤した「実例」が示されているので,「未熟なもの」と「完成度の高いもの」の違いが明確になり,読者がより良いものを見分ける能力を養うことができる。例えば不十分なインタビューにはどのような落とし穴があるのかという感覚を実例から養うことができるのである。良いインタビューでリッチなデータが得られた次には,データとの「うまいつき合い方」が必要になる。それを学習するために,初期の段階ではデータに「密着」して,プロパティとディメンションという「ものの見方」を身につけ,データに潜んだ関係性を読み解くのに必要なトレーニングが示されている。分析が進んだ段階では,逆に「飛躍」し,データから離れた場所から眺めることが必要になるが,いずれもゲームのような楽しいトレーニングの方法が提示されている。ところどころに,ゼミの学生と教員の実際の質疑応答が紹介され,読者の素朴な疑問を,ゼミの学生が本書の中で代弁してくれるような感覚で,自分の理解度を振り返ることもできる。さらに,今回の増補版によって,データがモデルに変容していくプロセスと,質的研究ソフトウェアが支援できる範囲が具体的に示され,一層理解しやすくなっている。
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