連載 患者学通信・10
Compassion(思いやり)
田中 祐次
1
1東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム
pp.1021
発行日 2007年11月25日
Published Date 2007/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663100815
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先日,東京の新丸ビルに行ったときの出来事です。ベビーカーを押しながらエレベーターを降りようとする女性がいました。誰も道を空けるわけでもなく,手を貸すわけでもなく,それどころかエレベーターを待っている男性は「すごい目」で彼女をにらんでいました。いつだったか,目の前で女の子が転んだとき誰も手を貸そうとしませんでした。「当たり前のように手を差し伸べる」ことができなくなっています。
手を差し伸べる人がいなくなった,という状況を超えて,今では,もし手を差し伸べたら,その人にはなにか魂胆があるのではないかと疑われてしまう,そんな世の中になってしまいました。実際に私も手を差し伸べようとしたことがありましたが,「何をするの!」と言わんばかりに,「すごい目」でにらみつけられたことがあります。
そこには,思いやりが失われつつある,人の思いがなくなる,もしくは伝わらなくなっていると思うのです。医療でもまさに同じようなことが起こっていると思います。
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