連載 私の一冊・25
私の人生を変えた柳田邦男の著作
川村 優希
1
1横浜市立大学医学部
pp.458-459
発行日 2007年5月25日
Published Date 2007/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663100675
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- 文献概要
■医学部進学のきっかけとなった
良書は人の人生までをも変えてしまう影響力を持っている。医学部に入学して以来,身近にいる医学生,看護学生から「柳田邦男さんの本を読んで医療の道を志すようになった」という話を幾度も聞いた。かくいう私もそんな影響を受けた1人である。身内に医療従事者や患者がいるわけではないが,医療に関心を持つようになったのは,柳田氏の著書が1つのきっかけになったといって間違いない。高校1年のときに母が書店で買ってくれた,『「死の医学」への序章』から始まり,むさぼるように氏の医療関係の著書を読んだ記憶がある。思い返せば,あのときが私が医療問題や生や死を自分の問題として考えた,人生で最初の経験であった。特に,今回紹介する本は,私が高校時代読書感想文コンクールで入賞したときの本であり,私にとっては特別な一冊となっている。
『犠牲』は,柳田氏の次男・洋二郎が心の病の末,自死の道を選び脳死におちいった11日間の記録である。洋二郎は自分が誰にも役に立てず誰からも必要とされない存在であるという苦しみを抱き続けていたが,「名も知れぬ人間の密かな自己犠牲」という点に心を惹かれ,以前から骨髄バンクのドナー登録をしていた。その洋二郎の気持ちに応えようとして,家族は息子の自死という衝撃,脳死という極めてあいまいな状態への戸惑いから受容へといたるまで段階的な苦しみを重ねながら,最終的には腎提供に至った。その11日間の様子が柳田氏の医療ジャーナリストとしての科学的な視点と,1人の父親としての息子への温情あふれる眼差しの双方が混じり合いながら,事細かに描かれている。
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