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はじめに
“ボトムアップ”という言葉が,最近では医療・福祉・保健・教育・心理・行政・法務・経済・経営といった様々な分野において注目を浴びつつある1, 2)。これは“トップダウン”に対比する言葉であり,広辞苑によれば,「企業経営の分野で,下部から上層部への発議で意思決定が行なわれる管理方式」とされている。
教育分野に当てはめると,従来の講義形式のように教師が学生に一方的に知識伝達をする形ではなく,学生が自ら考え発議し,それを教員が吸い上げその発展を援助するスタイルだと考えられる。いわば問題立脚,自己学習,学生討論を最大限に活用した授業である。究極的には,学生が授業計画を立て,適切な教員を集めてきて,教員と共にディスカッションをしながら進める授業スタイルというのも考えられるかもしれない。
教員による一方的な講義は,一回の講義内容が学生の長期記憶に残る率は2%以下であるともいわれている。一方このボトムアップ式授業では,教員が教壇に立っている時間を減らし,その分,学生側の席に降りて,席の後ろや横から,学生達と対話を増やすことができる。
このような授業形態という形の上でのボトムアップに加えて,筆者はもうひとつの意味をボトムアップという言葉に込めている。
それは,多様な現場(フィールド)からの発想に価値を置くこと,すなわち上下関係という権力性を脱することにある。従来の医療現場は,ともすると医師―患者,医師―コ・メディカル,などといった医師や医療経営者を頂点とするトップダウン方式で全てが決定される傾向にあった。病者や家族の価値観,直接病者と接する機会が絶対的に多いコ・メディカルの現場の意見をボトムアップできないものだろうかと,かねてより筆者は考えていた。筆者が本学で試みている授業では,従来のトップダウンをできる限り廃し,このような二重の意味でのボトムアップを目指そうとするものである。
前回に続いて紹介する授業のアイデアは,筆者が浜松医科大学在学中に出会った恩師,医学教育・看護教育の分野で多大な貢献をされてきた故中川米造先生3)および植村研一先生4)によるところが非常に大きい。大学における医学概論の授業や,「全人的医療を考える会」5)における医学生向けのワークショップなどに参加した経験は,大学教員となった今に大きく活かされている。
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