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はじめに
早稲田大学の人間科学部は,従来の学問では実現できないアプローチの仕方で,新たな学問体系を構築してゆこうとする理念のもとに設立された。人間に関わる様々なテーマを,人文社会科学と自然科学を文理融合し,総合的・学際的に捉えることを目指している。
筆者は,医学部を卒業し医師として働く傍ら,医学系大学院にてストレス防御心身医学という理科系の学問を学び,その後人文社会系大学院にて文化人類学を学んだ。2003年度に当大学に赴任したが,筆者自身が理科系と文科系を渡り歩く経験をしてきており,人間科学部の理念は筆者自身の目指す学問的態度と一致している。まだまだ,自分自身の中で文理融合が完成しているわけではなく,学問の枠を越えた事物の理解を,学生と共に“様々な視点から考える”経験を通じて目指してゆきたいと考えている。
2003年度の学科再編によって誕生した健康福祉科学科では,生命医科学・健康科学・福祉医工学・福祉学・臨床心理学などの融合を目指した教育を開始している。この学科において必要な単位をとると,社会福祉士(ソーシャルワーカ)受験資格や,衛生管理士,認定心理士などの資格が取得可能になる。医学・医療系の科目としては,分子生物学・細胞組織学・解剖学・生理学・栄養科学・薬理学・免疫学・心身医学・医学一般(臨床医学)・予防医学・救急医学・産業医学・生命倫理などであり,基礎医学から臨床医学まで核となる学問が広く用意されている。筆者は,健康増進医学・生活習慣病学・介護概論などを担当している。
医学部や看護学部ではない学部で医学や医療を教えることは,現代の閉塞的な医学・医療状況を“外から”変えてゆける人材を育成する意味があるものと筆者は考えている。卒業生達が,人間についての学際的な知見をベースに,現代医学・現代医療を大きく変えてゆける力となってくれることを願っている。そのためには,時代と共に変化してゆく知識の習得よりも,多様な視点からものを考え,自らの頭と心と身体を使って調べ,考え,問題解決力を養い,自分の考えをひとに伝える経験を積むことが何よりも大切だと考えている。
本稿では,このような理念の下,学生の主体的学習を促すボトムアップ方式の授業をいかに作ってゆくか,そのモデルを本号と次号にわたって,2つご紹介したい。
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