連載 野道を行けば・3
子どもの本分
頼富 淳子
1
1(財)杉並区さんあい公社
pp.244-247
発行日 1996年3月10日
Published Date 1996/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662901337
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いいもの見つけた
JRの阿佐ケ谷駅から中央線に乗りました。ドアの近くの床にハンカチを畳んだ位の大きさの色刷りの紙が落ちていました。本か何かの宣伝のチラシのようです。ゴミだな,誰かが落としていったんだ,拾って捨てようか,でもまあいいか,と思っているうちに電車は荻窪駅に到着。ドアが開くやいなや親子連れが5〜6人ドヤドヤとかたまって乗り込んで来ました。その中の一番小さい女の子がその紙に目をつけました。目にも留まらぬ早さでしゃがみ,その紙を拾いました。いいもの拾っちゃった,というふうに。ところが,たちまち母親の大きな声。「何でも拾うんじゃないの,捨てなさいったら,もう」
女の子は馬耳東風といった顔をして拾った紙をためつすがめつしてからポケットにしまい込んでしまいました。彼女には蒐集するに価するものと映ったらしいな,そう思って私はひとりニンマリしていました。我が家でも今では見上げるほどに育ってしまった息子がまだ幼かった頃,同じような情景が繰り返されたものですから。
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