特集 保健婦はHIVにどう関わるか
健康教育の原点に戻ってエイズ対策を考える—エイズ教育のモヤモヤから抜け出すために
前田 秀雄
1
1東京都東久留米保健所
pp.679-684
発行日 1994年9月10日
Published Date 1994/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662900986
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「エイズ教育」は存在するか?
エイズが,その実像からではなく,マスコミのセンセーショナリズムによって日本の衛生行政の主要な課題に祭り上げられて以来,“まずエイズ対策あるべし”という予算とその現実感のない地域の間にたって,多くの自治体では現場の職員がモヤモヤと戸惑いを感じながら事業を積み重ねている。エイズ研修を受講すれば,「新たな疾病には新たな対策が必要である」と教えられるし,実際,既存の事業とは全く毛色の違う事業のように感じられるからだ。具体例をあげると,売春・同性愛といった得体の知れない事柄が関わってくるし,花形の健康づくりとは違って暗い印象が強い。また,昼日中に保健所に来られるのは主婦がほとんどだから,夫の素行を心配する種をつくるのがせいぜいだ。
しかし,エイズは公衆衛生にとって全く未知の課題ではなく,これまでの公衆衛生活動の延長線上にあることは既に指摘されている1)。例えば,差別を受ける感染症としては,らい,結核が当時の社会状況においてエイズよりはるかに深刻であったし,予後が不良な点では,がん・難病も同様である。
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