特集 保健婦はHIVにどう関わるか
保健所への期待
相楽 裕子
1
1横浜市立市民病院感染症部
pp.686-690
発行日 1994年9月10日
Published Date 1994/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662900987
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はじめに
WHOの推計によれば,1994年前期に世界のHIV感染者は1600万人を超え,このうち東アジアおよび太平洋地域の感染者は5万人である。1994年4月末現在,わが国では血液凝固因子製剤による感染者を除く届け出数は1251人であるが,実数はおよそ10倍と推測されている1)。これらの感染者が無症候性キャリアを経て今後2〜3年の間に続々と発病するものとみられる。
厚生省の基本的な考え方としては,医療機関はその機能に応じて患者らを受け入れることとし,一般的な診療は身近な医療機関で行い,重症患者に対する総合的,専門的医療を提供するためには地域における拠点病院を整備することが適切であるとしている(健医発第825号,平成5年7月)。しかしながら,現在まで拠点病院が整備された自治体はごく少数に過ぎない。感染者と判明すれば,その多くは“不名誉な疾病”罹患者として有形無形の差別に曝され,心を安める場所がないため,リスクファクターをもつ人々は,検査結果を知って差別を受けたり死の恐怖に悩むよりも,発病するまで検査を受けないでいる道を選ぶようになっているようにみえる。このような考え方が患者自身にとっても患者周辺にとっても不幸なことであることは言うまでもない。住民に対する普及啓発活動を行い,HIVに対する理解を深めることが差別撤廃,感染拡大防止につながる道である。
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