1さつの本
小林 美代子 著—精神病院勤務のころを思い出す"髪の花"講談社
中村 利江
1
1熊本県立公衆衛生看護学院
pp.537
発行日 1973年7月10日
Published Date 1973/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662205329
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弟に"髪の花"をすすめられて,つい最近読んだところ感慨を深くした。著者は精神病院での長い入院生活の体験者である。平和な愛のある暮らし,社会のなかでの健康な生活を熱望しながら,精神病院で日を送る人たちを描いた作品である。引受人がないため全快してもなお十数年の入院を余儀なくさせられている人たちがいまもなお多く,その人たちの望み少ない病院生活を社会に訴え,なんらかの救済措置が講ぜられることを祈って書いている。
"髪の花"の主人公の具塚ふさ子は,自分の名前がわからないため,保護された土地名と福祉事務所長の名を組み合わせて呼名とされた女性である。彼女の,顔も思い出せない,生存しているのどうかもわからぬ母あてにつづる手紙に,毎日の病院生活の様子が克明に描かれている。たとえば,患者ゆり子の場合,国から支給される日用品費のなかから飴代しか残らぬ金でレース糸を買い,合い間に編んだ手提げ袋を姉に送ったら返送されてきた。"あなたとは縁を切ったのだから,手紙はもちろんのこと手提げ袋など送ってくれるな"とすげなく断わられている。その手紙を患者たちは回し読みながら,ただ1人の伯母に絶縁を宣言されたという患者のことについて,私も,私もそうよと他の患者たちは口をそろえて,せつなそうにいっている。
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