Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
小林美代子の『髪の花』—精神障害者の自己受容
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.680
発行日 2018年7月10日
Published Date 2018/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552201372
- 有料閲覧
- 文献概要
昭和46年に小林美代子が発表した『髪の花』(『蝕まれた虹』,烏有書林)には,小林自身を思わせる統合失調症の女性が,自分と同じ精神科病院に入院しているりえ子という患者と,生きることの意味について語り合う場面がある.
この時りえ子は,自分の病気のために母親まで精神科病院に入院する羽目になったことを嘆きながら,「母は何で私を生んだのかしら」と,主人公に問いかける.それに対して主人公は,「生まれなかったよりよかったと思わない?」と言って,次のようにこの世に存在することの意味を強調する.「何事も存在してから始まるのよ,この世に自分が全く存在せず,絶対の無だったとしたら,空恐ろしい程,空虚しいと思わない」,「狂って,生まれたての猫をかじっていても,そこに存在しているということは,その者にとってはとても大切なことなの」,「生れずに,多数の人が行動したり,見たりした総てを,太陽も,世界も,宇宙も,人間さえも知らなかったら,考えられない程の,大きな損失をしたと思わない」.
Copyright © 2018, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.