Perspective◆展望
思い出すことなど
石井 均
1
1奈良県立医科大学 糖尿病学講座
pp.641-643
発行日 2017年8月15日
Published Date 2017/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1415200724
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夏目漱石は胃潰瘍が原因で何度か吐血している.1910年(明治43年)療養中の伊豆修善寺で大吐血を起こし,生死の間をさまよった(修善寺の大患).『思い出すことなど』は,このときの経過を書いたものである.
余は……左右の腕に朝夕二回ずつの注射を受けた.腕は両方とも針の痕で埋っていた.医師は余に今日はどっちの腕にするかと聞いた.余はどっちにもしたくなかった.薬液を皿に溶いたり,それを注射器に吸い込ましたり,針を丁寧に拭ったり,針の先に泡のように細かい薬を吹かして眺めたりする注射の準備ははなはだ物奇麗で心持が好いけれども,その針を腕にぐさと刺して,そこへ無理に薬を注射するのは不愉快でたまらなかった.
夏目漱石 「思い出すことなど」
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