1さつの本
—吉野 秀雄 著—闘病生活の支えになった"やわらかな心"講談社
杉本 竟子
1
1北海道立衛生学院
pp.75
発行日 1974年1月10日
Published Date 1974/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662205424
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私の本棚の片すみに,他の本とは違った意味をもつ1さつの本がある。本の題名は"やわらかな心",著者は吉野秀雄氏である。その本は,歌人である著者が,長年の病床生活のなかで書いたものを中心にした随筆集である。真白な表紙にすなおに書かれてある題字も,大変気にいっている。そして私はその本をとても大切にしている。以前から詩や歌の好きな私とその本との出合いは,いくつかの新しい歌集や詩集を読む糸口を与えてくれた。読んだことのない著者自身の作品,八木重吉,会津八一などの作品などにも目を通した。歎異抄,出家とその弟子,高村光太郎の作品なども再度読む機会になったのも幸運であった。
その本は9年くらい前の冬のある日,親しい友人から送られたものである。当時私は腎疾患のため,カトリック系の病院に入院していた。その入院は私にとって3度目の闘病生活であった。慢性疾患であり,長期入院はやむをえなく,自覚症状が軽快してもなかなか退院の目途はたたなかった。病院生活も数か月すぎ,薬の副作用が強くあらわれ悩まされていた。職場のこと,自分の将来の生き方など考えるにつけ,若かった私には一日一日が虚しい時の流れに思えてならなかった。
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