1さつの本
—住井 すゑ 著—差別に対して目を開かせてくれた"橋のない川"新潮社
中島 和子
1
1大阪市東成保健所
pp.144
発行日 1973年2月10日
Published Date 1973/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662205233
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"橋のない川"が本屋でふと目にとまって読みはじめた。1部を読み終えてすぐ2部をなんばの本屋へ,最後は4部,5部といっしょに購入して夢中で読んだ。
"橋のない川"は,差別された現実,苦しさが深く深く書かれ,日本人の歩んだ道の一端,そのたたかいが書かれていた。本のなかでいま思い出される部分は武やんは,小学校入学の前日弟のおもりをしていた。そして弟が腹がへったとゆうて泣くし,本人も腹がへり,家人のいないときそら豆をいった。そのとき近くのわらに火が燃え移り,火はどんどん広がり,とうとう隣近所も焼けた。武やんは,警察で調べられたときも,父にも母にも,どうして火事になったかを言わなかった。それは小森の村では,当時そら豆は貴重な食物だったので,そら豆をいったことがわかると,どんなに父親になぐられるかわからないというこわさからだった。それで皆に火わるさをして火事になったと思われていた。そのため武やんは入学当時から,火つけと言われ,学校へ行かなくなった。それから何年かたち,奉公に出される前日,自分と自分の身体をあっちもこっちも剃刀で切って死んでしもうた。武やんはそのとき13歳だった。この子は,差別の社会のなかで,身も心も傷だらけになって死んでいった。いっぽう,武より1歳年上の孝二は,友人のこんな姿も見,差別の苦汁を飲み尽くす。その苦しみのなかから,孝二たちは,先輩に続いて,差別の壁を破るたたかいを展開する。
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