八丈の島から
第14回 シシフォスの神話
膳亀 和子
1
,
古川 千寿子
1
,
上田 きよえ
1
,
川嶋 紀枝
1
,
小座間 浄
1
,
八代 悠紀子
1
1町立八丈病院
pp.68-69
発行日 1968年9月10日
Published Date 1968/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662204277
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Aさんの死
「Aさんが亡くなった!」午前8時,勤務に出ると,「おはよう」の挨拶より先に当直の事務さんが叫ぶように言う。「どうして?!」きいても仕方のない問をおうむ返しに叫びながら,昨日午後,往診に行ったときのAさんのしょげかえった姿が鋭く脳裏をよぎった。今朝早く,自宅の物置きで縊首自殺を遂げているのを奥さんがみつけたという。「また…」しめつけられるような思いに唇をかんでいると,検視に出ていたドクターが興奮して帰って来た。「昨日,一緒に往診したんだよなあ」と,こちらの顔を見るなり発して,しばらくは無言(やっぱりやりきれないんだな…)そう思いながら,また強く唇をかんだ。
Aさんは60歳。引退したとはいえ,島のフリージア栽培の第一人者であり,数多くの新種を作り出して,その道の権威といわれていた人である。昨年春,赤,黄,白,紫,橙,ピンク,えんじ…と,新緑の山合いに見事に咲きそろった畑で色の珍らしさに大騒ぎするわたくし達に香りの高い花をつませてくださったのもAさんであった。
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