保健婦の手記
すべての保健婦は労働者である
中島 紀恵子
1
1北海道・池田保健所
pp.42-44
発行日 1963年12月10日
Published Date 1963/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662202994
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悲壮になってはいけない
この標題をつけるには正直勇気がいりました.しかし保健婦としての倫理や使命,役割を考えてゆくと,どうしてもそれが労働者の形をしてきます.これを書くにあたって北海の僻地の不利を実感しました.これはすべて私自身のひとつの思考の過程です.十分にご批判願います.
私たちがよく使うことばの中にはずいぶんと悲壮なのがあります.「厚い壁にぶつかる」などその1例のようです.私はこのことばが嫌いです.何かセンチメンタルでローマンで時にはニヒルな時さえあります.まるでギリシャ神話のナルシスのようにかわいそうです.それは決してアウシュヴイッツの囚人のような限界状況ではないのに,可能性の極限点にいるという錯覚を与えずにはおかない何かがあります.そしてそれが学習の途上にある学生を,空想的改良主義にしか導びかないような現実暴露や現実批判の形になって現われ,かれらをその上に立つ進歩主義におしやるか,あるいは絶望におしやることに気づいていないようです.念をおさなければならないのは,私がこれを嫌うのはことばそのものではなく,それにつづくものが他人,不安,孤立を意味することが多いからです.
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