書評
榛葉 英治 著—「誘惑者」
松本 一郎
pp.45
発行日 1959年1月10日
Published Date 1959/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201794
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原型的な人間実験
山崎豊子といつしよに直木賞をもらつた榛葉英治が,「誘惑者」という長篇小説を発表した.この作品は,「破片」「夜の鱶」「追われる男」「暗い波」「誘惑者」「靄」と6つの章にわかれていて,それらのうちの二,三は,数年前に文芸雑誌にのつたことがあつたから,この作品は実はもう大分昔からコツコツと書きためられてきたものである.直木賞受賞を契機に,脚光をあびたわけだ.
作者はこの本の「あとがき」で,次のようなことをいつている.「これは,ある毒をもつた小説をといえよう,作者は,この小説が,とりわけ若い人たちにあたえる影響を考えないでもない.しかし私は,文学は,道徳や社会の秩序に奉仕しなければならないという考えをもつていない.人間や社会の表皮にかぶさる金澤(かなくそ)やカサブタを剥ぎたいのだ.」
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