2頁のダイジエスト
—榛葉 英治 著—「渦」
原 誠
pp.40-41
発行日 1956年12月1日
Published Date 1956/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201171
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昭和23年,「文芸」という雑誌の12月号に,一人の新人作家が注目すべき小説を発表した.題名は「渦」.作者は榛葉(しんば)英治である.その頃の文芸の編集長は,いま評論家として活躍している杉森久英であつたが,杉森はそのあとがきで榛葉英治のことをたしか次のように紹介していた.この人が今までどんな作品を書き,どのような文学歴のある人か,ぜんぜん知らない.「渦」は投稿原稿で,とにかく大きな問題をはらんでいるので掲載した,と.つまり,榛葉英治という作家は,戦後の新人なのである.その「渦」につづいて,翌24年の「文芸」にこの作家は,「渕」「流れ」と題する続編を発表し,とにかく戦後文学というものの批評の対象として大きくクローズアツプされながら,「渦」三部作を完結したのである.
それが今度,あらためて一本にまとめられ出版された.7〜8年昔の雑誌に発表されたときよりは,かなり手を入れ,あたらしく書き足した部分もあるそうだが,それはたえず昔の自分の作品には愛情とともに不満をもちつづけている作家の潔癖さがそうさせたのであつて,おそらく,あらためて手を入れたり,あたらしく書き足したりしなくても,この作品はそのまま戦後文学のなかで光をうしなわない傑作のひとつであろう.
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