書評
—石川知福 著—労働衞生概要
額田 粲
1
1東大公衆衛生学
pp.64
発行日 1956年6月10日
Published Date 1956/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201221
- 有料閲覧
- 文献概要
- サイト内被引用
序文にあるようにこの本は東大教授故石川知福先生が医学生や労働衛生の実務にたずさわる人の参考書として執筆されたものである.先生はこの本を書かれた昭和24年からなくなられた昭和25年春迄,東大在職中講義用テキストとしてこの本を用いられた.端的に云つて学生さん達にはこのような本はあまり受けがよくない.もつと理論的のことを述べ,理屈をこねてないと大学生の読物とは思わないようである.しかしそう云う理論好きの人の読物を84頁の本書に望むのは無理である.
この本に書いてあることは労働衛生の実務にたずさわる人許りでなく一般公衆衛生関係の人としても常識として知つて置いてもよいこと許りである.本書の初版が出てから今年はもう7年になるが,その間労働衛生も随分変化した.少くとも学問としての労働衛生は7年前にくらべて進歩したが,実踐としての労働衛生の進行の度合は最近は少々にぶつて来たようである.「労働基準法は日本には少々行き過ぎである」と云う声すら我々の耳に屡々はいつて来るようになつた.石川先生はこの本の序文で「この法規(労働基準法)が如何に理解され如何に運営されるかと云うことによつて,将来の日本人の生活の健康面と文化面との水準がきまるであろう」と書いて居られる.学問は如何に進歩しても,実踐がともなわなければ,少くとも公衆衛生の面では進歩とは云い難い.7年前に比して我々の国民生活の水準は格段の進歩をとげた.
Copyright © 1956, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.