特集 慢性疾患—明日の公衆衛生のために
インシュリンの自己注射のやり方
葛谷 信貞
1
1東大
pp.110-112
発行日 1956年5月10日
Published Date 1956/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201187
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糖尿病患者のインシユリン注射は,自分自分に行うのが最も望ましい.医師又は看護婦に依存するのはよくない.その理由は糖尿病患者のインシユリン注射の目的は,体内に不足するホルモンの補給であつて,本ホルモンが欠乏する限り一日もその補給を怠つてはならない(若い患者では急に注射をやめると昏睡がおきることもある)からである.旅行中と雖も注射しうる様にする必要があり,自ら注射しうる患者は安心して旅行することが出来る.旅行のみならず,一般に患者の行動の自由度がたかく確保出来る.又食事の時間に応じて注射の時間を加減することも,自ら注射しうることによつて始めてよく行いうる.インシユリンはアスピリンその他のような病気を治す薬品ではなく,ビタミンやむしろ,3度の食物にも比うべき人体個有のホルモンで,体内に本ホルモンの不足し勝ちな糖尿病患者は非常にこのホルモンを体内に補給することを考慮すべきものなのである.従つてその注射は洗面やひげそりの様な気易さを以て行える様でなければならぬ.
インシユリン注射には目的に応じて,色々な種類があるから,よく医師の指示に従つて行わねばならぬ.昔のインシユリン(現在は普通インシユリン,又は溶性インシユリンといつている)は注射すると短時間で効きはじめるが,効果の持続時間は短く,一日に3度も4度も注射せねばならぬ.
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