保健婦鞄とともに
Sさんの思い出(下)
竹村 美代子
pp.6-10
発行日 1956年4月10日
Published Date 1956/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201147
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2,3日経つてから,突然Sさんが又リンタクに乗つて外来にやつて来た.しきりに降ろして呉れとせがむSさんをなだめて困惑し切つているおばさんに事情を聞くと,Sさんがどうしても入院したい,無理にでも行つて入院させて貰うのだといつて,とうとうリンタクを呼んで,大蔵病院まで行つたが,玄関で帰され,こんどは予防所へ行つて何とかして貰うのだといつて,とうとうここまで来てしまつたと語るのであつた
予防所に来れば,何とかして呉れると藁をもつかむ気持でやつて来たSさんやおばさんを,私達は,せめる事などできはしない.Sさん一人をおいて出掛けることを心配しながら,悦ちやんをおぶつてお握りを作つては競輪場へ売りに行つていた.真剣に入院させたいとおばさんは思うのだろうし,Sさんも身動きのならない体で,人間らしい医療の手を欲しているのは当然だつた.私達は,ただもう少し待つて下さいと,なだめすかすような事しか出来なかつた.口先きだけで欺瞞しているような自分に悲しくなりながら…….
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