特集 思い出・追悼論文
想い出
清水さんの思い出
吉川 仲
1
1名古屋大学
pp.444-445
発行日 1954年8月10日
Published Date 1954/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409201068
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清水さんに初て御目にかかつた時の印像は深く脳裏に刻みつけられて居る。所は東京大学の産科婦人科教室,時は大正6年である。当時私は東京大学を卒業して産婦人科を志望し入局を許されて教室員となつた計りの諸事見習中 清水さんは愛知医学専門学校の教授を辞任されて欧米各国へ出張される前の期間を東大の教室で御研究に過ごされる為に来られて居つた時である。そうした或夜恰も分娩当直で仕事も一段落,煙草一服と医局の大火鉢の傍に居つた所へ清水さんが来られて温顏に微笑を湛えられ弟に対する如く研究上の事,教室の歴史,医局生活の事などもろもろの事ども話して下さつた。此時の光景は丁度一高へ入学を許可され寄宿舎へ入舎した第一夜,中堅会(2年生の人々の会)の方に懇々と寮生々活の注意を聽いた時を想い起し,ほほえましくも亦将来進む道に指票を示して下さる事と鞠躬如として承わり夜半近くなつてしまつた,其時清水さんは誠に几張面な親切な方であると思われた事が後年名古屋へ赴任してからそれが間違いでなかつたのを裏付けられたのである。
清水さんは東大御卒業後生化学の教室で基礎を築かれ産科婦人科教室を経て名古屋の愛知医学専門学校の産婦人科の教授として赴任された。当時は科長さんと云うのが教室主任の呼名であつたそうである。
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