講座
忘れられた栄養学—カロリー計算にとらわれるな(4)
近藤 とし子
1
1栄養改善普及会
pp.20-24
発行日 1955年5月10日
Published Date 1955/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200947
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この間,世界産業衛生学会に日本代表で出席された恩師暉峻義等博士が帰朝されたので一日ヨーロツパやソ連の集団給食の状況を伺つたが何れの国も,日本の様に毎日の献立の栄養価計算をしているところは何処もないという事であつた.むしろ如何においしく,よい環境と楽しい雰囲気で食べさせるかという事に没頭しているという事であつた.
私は,この事は実に大切な事であると思う.日本の場合は安く出来てまずいものを,栄養価を押しつけて食べさす事に栄養士は骨を折つているのである.然しこれは栄養士の罰ではなくて社会の水準の違いであり,政治の在り方の相異から来るのであるが,日本の政治のあり方,行政のあり方は,初めから病院給食や学校給食,保育所給食等の予算の枠が定つていて,その枠の中で食糧構成をやり,栄養計算をやつて,一応の栄養価がととのえばそれでよいと考え食べる病人や子供などの事は念頭にはない.栄養計算というものは食べて後にプラスかマイナスかが出て来るものであつて,ペーパーの上で出るものではない.だからひどいのになると,これは或る保育所給食の例であつたが,皆が持ちよつて来た献立表をみると3ccや2ccの醤油に到る,迄カロリー計算をして,基準量にあわす事に汲々としているのである.人間というこの複雜な生活体は,カロリーが10カロリーや20カロリーどちらに転ろんでも大した事はない.
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