講座
妊娠と結核
藤森 速水
1
1大阪市立医科大学
pp.12-15
発行日 1955年2月10日
Published Date 1955/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200895
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終戰後,優生保護法の制定により人工妊娠中絶が,比較的簡単な法律上の手続により,容易に行いうるようになつたことは,種々の観点から考え直さねばならない色々の問題を含んでいる.
就中,母体合併症を人工妊娠中絶の適応とすべきかどうかを決定するに当つて,詳しい医学的の検査も行われず,その病勢の進行程度や予後を深く考慮することなく,人工妊娠中絶に委ねる傾向あるは誠に遺憾である.尤も,妊娠と密接な原因的関係を有する合併症,例えば妊娠惡阻であるとか妊娠浮腫,妊娠腎,子癇の樣なものは妊娠を中絶することによつて好転し,母体は生命の危険から免れる事が出来るけれども妊娠と原因的関係を有しない合併症,例妊ば肺結核,心臓病などの如きは,え娠を中絶しても,只妊娠,分娩の負担から免れるのみであつて,斯様な合併症そのものは急速に好転するというわけのものではない.殊に肺結核に対しては人工妊娠中絶という手段は,結核に対する治療ではない.それ故結核に対する治療は当然施行されねばならないのにも拘らず,一般に肺結核を合併している妊婦に対しては只,人工妊娠中絶のみを施行して結核に対する治療上の注意も,示指も与えず,その儘放置する傾向にあるは実に不合理極まるものと言わねばならない.又,人工妊娠中絶は,母体の結核に対して却つて惡い影饗を与える事もあり得ることを念頭に置かねばならない.
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