保健婦活動とその周辺
妊娠と結核
由利 富美子
1
1東京都中野北保健所
pp.35-40
発行日 1964年7月10日
Published Date 1964/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203155
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はじめに
保健所に勤務する医師や保健婦が,外来診療や家底訪問の際に,結核患者や結核の既住をもつ人たちから,「子どもを産めるかどうか……」とか,「妊娠したのに周囲の者から中絶をすすめられて困る…」というような相談を受けるのはまれではない.また,すでに医師のすすめで人工妊娠中絶を受けてしまったということもしばしば聞かれることだと思う.事実つい最近までは,肺結核を合併した妊婦の治療的立場からは,妊娠中絶が絶対の適応であると医師の間でも信じられていたし,もちろん一般にも常識となっていた.
しかし,私が昭和25年から2年間勤務していた桜町病院では,昭和16年ごろから肺結核妊婦の治療には,積極的な治療と十分な管理のもとでは,人工中絶はまったく必要でないという立場をとっており,現在のような強力な化学療法の行なえなかった当時から,人工気胸,気腹療法や種々の外科的療法の適当な組み合わせによる,積極的な治療のもとに(もちろん現在は各種の化学療法が主体である)妊娠を継続させ,無事分娩させることができた例を昭和38年までに79名(103妊娠)経験している.一方,既往歴などから,むしろ人工中絶を受けた後に悪化していると思われる例も少なくなかった.昭和28年には日本結核病学会総会でこの問題について由利が報告しているが,当時は産児調節のさかんな折がらか,1部を除いてはあまり注目をひかなかった.
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