マイ・オピニオン
人を理解するということ
樋口 康子
1
1コロンビア大学
pp.229
発行日 1976年3月1日
Published Date 1976/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661922570
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1人の人間を理解するということは容易なことではない.理解するということの中には‘悟る’‘分かる’‘言葉を解する’‘確実な事実と心得ている’‘確実には知らないが事実と思う’‘意味など了解する’‘会得する’‘知っている’‘聞き及んでいる’などの意味が含まれている.1人の人間を理解するためには,その人とのコミュニケーションが成立しなければならないし,さらにその人を受け入れたという状態にならなければ,理解したという段階には至らないであろう.
最近体験したことであるが,あるグループの会話の中で,ある音楽に対して好むか好まないかという話題がだされた.グループの一員であるY嬢が,自分が不愉快だと感じたその音楽に対するいらいらを,理論的に説明せず,短い率直な言葉できらいだと表現した.するとN氏が追うように‘あなたのように理論的に説明しないで,良い悪いと言ったのでは,だれも聞いてくれないよ’と反撃した.私はこの反撃の中に,ある傾向を読みとって恐ろしく感じた.Y嬢は,その音楽に対するいらいらを,理論的に説明できないから,感じたままを率直にグループにぶつけたのだったが,この意思表示に対して,多くの人びとは耳を傾けようとしないばかりか,意識的に無視しようとする傾向があったことである.
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