連載 高齢化社会の福祉と医療を考える・2
‘老人’とはだれのこと?
木下 康仁
1
1立教大学社会学部
pp.1174-1177
発行日 1986年10月1日
Published Date 1986/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661921547
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近代社会における‘他者排除’のメカニズム
‘老人’とはだれのことかという問いのたて方は,ずい分人を食った態度のように思われるかもしれない.‘老人’が‘年寄り’のことぐらい子供でも知っているではないか,こんなわかりきったことをわざわざ問うというのは詭弁でも弄するつもりなのか,といった反論がすぐに出てきそうである.しかし,私たちは本当に‘老人’とはだれのことか知っているだろうか.もしかしたら知っているつもりになっているだけなのではないか.‘老人’とはどういう存在なのかをあいまいにして,どうして老人福祉や老人医療について,あるいは老人と家族についてものが言えるだろうか.
あまりにも当たり前になっているので日常意識するてとはまずないのだが,私たちの社会生活はお互い相手が何者であるかという,相互の存在規定に基づいて成り立っている.相手が何者であるかが不明だと,私たちはその人間に対してどう振る舞ったらよいのかわからなくなる.つまり,自分と他者との関係は相互の社会的存在規定によってはじめて秩序が与えられるのであり,この共有された秩序を私たちはふつう‘常識’と呼んでいる.
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