ビバ!ラプラタ アルゼンチンの日系人とともに・1
アルゼンチンへの旅立ち
藤原 美幸
1
1帝京大学医学部付属病院
pp.106-108
発行日 1981年1月1日
Published Date 1981/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661919150
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連載をはじめるにあたって
‘アルゼンチンでの生活はどうでしたか’はともかく,‘どんな成果がありましたか’という問いほど答えにくいものはない.しかも周囲の人々が知りたがっているのは,まさにその事なのである.さて,どう答えるべきか.返答に窮するあまり帰国以来の私は,自閉症を決めこみ,この種の問いから逃げ続けていたのだった.
出発前の愛想よさはどこへやら,帰国後,面倒くさそうに接する私に‘苦労してきたな’と,友人は感じたようだ.異文化をかい間見たという,カルチャーショックから立ち直るための一手段としての逃避も加わっていたのかもしれないが,‘1年や2年外国へ行ったことで格別何がどう変わるものでもないわ’と開き直るのは少々残念でもある.‘何かがあったはず’と,いまだにその何かを捜しているのであるが,こんな情けない心境に陥っているのも,アルゼンチン行きを決定するまでのいきさつが原因しているようだ.外国という異なった環境に自分を置いてみることで,何かがつかめるのではないかという目論見はあったのだが,しかし,それはあくまでも‘何か’という抽象的なものであって,具体的な目標ではなかった.いうなれば‘何でもみてやろう’式の焦点の定まらないままの旅立ちであった.
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