余白のつぶやき・18
言恋病(ことこいびょう)
べっしょ ちえこ
pp.109
発行日 1981年1月1日
Published Date 1981/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661919151
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午後四時、三日まえから難渋していた原稿にやっとケリがついた。どこかがひどく渇いている。いつもの言恋病。そういえばこのところずっと人との対話がなかった。ふいに衝かれたようにダイアルを回す。小玉香津子さん宅へ。おられるかしら。
小玉さんは、すぐれたナイチンゲールの研究家、翻訳者としてお名前だけを存じあげていた。五月にある場所で人から紹介され、しばらくお話しして別れた。それだけの間柄である。それだけの間柄て用もないのに藪から棒の長電話では誰でも面くらうだろう。小玉さんもはじめは戸惑っておられたが,そこはそれ聡明な彼女のこと、私の発信する暗号をすぐに解読して、チャンネルを合わせて下さった。えんえん一時間。
人は喉が渇くように対話に渇くことがないだろうか。私にもよくそんなときがあって、やみくもに発信のキイを叩。しかし世の中には、忙しい人や忙しがってみせる人が多くて、閑人から送る秋波はたいてい拒絶される。
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