特集 患者の死をみまもって
患者さんの死を見つめて
那須 操子
1
1諏訪赤十字病院内科病棟
pp.257-259
発行日 1980年3月1日
Published Date 1980/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661918901
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はじめに
先日,夜勤時,ふといつもは開いたこともない“入退院者名簿”なるものを,病棟の棚から引っ張り出してみた.勤め始めて8か月の私であるが,なんと多くの人びとと接して来たのであろうかと,改めて驚いてしまった.1人1人の名前をたどっていくと,忘れ得ぬ顔や姿が次々と浮かんでくる.そして,今ごろどうしているかと気になるものである.しかし,亡くなってしまわれた方がたに関しては‘もうこの世には存在しないんだなあ’という,何やら今だに信じられないといった思いにかられる.
そんな人びとを思い出す時,頭に浮かぶのは,決まって元気なころの姿なのである.大手を振り足を高く上げ‘イチニ,イチニ’と歩いていた姿.ポロポロとごはんをこぼしながら食事をしていた姿.‘看護婦さんのお家はどこ’と尋ねられたこと.‘ありがとうね’と言われたこと.‘ウンチー’と叫んでいたあの顔,あの声.なんの変哲もないようなことなのに,思い出すのは不思議とそんなことばかりである.しかしこれらのことは,その人びとが生きてきたという,いちばん確かな証しではないかと思う.
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