疾病の病態生理—最近の考え方・8
肝性昏睡
中村 允人
1
1現,大阪府立成人病センター内科
pp.1048-1051
発行日 1972年8月1日
Published Date 1972/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661916409
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はじめに
肝性昏睡という言葉は一応‘重篤な肝機能障害があって精神神経症状を伴う状態’と定義されている.一般には肝炎や肝硬変症で代表される肝実質障害の終末像であると考えられているが,その原因となる肝臓の病態や起こり方からみて2種類の型があり,ある肝性昏睡のケースがこのどちらの型に属するか,あるいは少なくともどちらの因子がより大きく働いて昏睡状態になっているかを考えることは,その患者の医学的管理や治療方針を決定する上に極めて重要である.
第1の型(仮にType Aとする)は急激に肝実質組織が高度にかつ広範囲に破壊され,肝臓の機能が廃絶に近い状態におちいった時に見られるもので,急性肝炎の特殊な型,すなわち劇症肝炎または電撃性肝炎と呼ばれるものや,四塩化炭素や有機リン製剤のような肝臓毒による急性中毒の際に起こる.それまで全く肝疾患の既往のなかった人に突然黄疸とともに精神神経症状が出現し,多くの場合一両日のうちに昏睡状態に移行する.肝臓では肝細胞が広範囲にかつ一時に壊死におちいり,その結果数多くの肝臓の生理機能はほとんど営まれなくなる.
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