この道
心の大らかな人びと
大嶽 康子
1
1武蔵野日赤看護部
pp.56-57
発行日 1965年5月1日
Published Date 1965/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661913587
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部屋の入口にノックの音がすると,それまでどんなに深い眠りにおちていても,まるで頭をなぐられでもしたように目を覚し,機械のように身仕度をととのえ,つぎの瞬間には入口にそろえておいた洗面器をもって靴をつっかけ,今一度白衣のボタンをたしかめながら病室へ急ぐ。
2年生が一通り病室へ出た頃を見すまして3年生の明番者の部屋がノックされる。病室へいった2年生は3年生のくるまでに,すずりと筆を洗い,その日の勤務者の氏名を書く板をはずして雑巾でふき,3年生の座る机の前にそろえ,墨をすっておく。ついで患者の朝食の茶の用意のため,大やくわんの中の茶袋をとり出して洗い,湯沸器の腹にはりつける。そうすると袋は間もなくきれいに乾いてしまうからだ。やがて3年生がねむそうな顔をして出てくると,申送りが始まる。美しい筆跡で和紙に書かれた病棟日誌を宵番者が読み上げ,体温表控で一人一人の患者の容態が申送られる間も,2年生は,これから朝までにしなければならない仕事の順序を頭の中で何べんも考え,落度のないように,そして無駄なく,早くする方法を考える。それは運動会の仕度競争にも似ている。
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